全米オープン 男女連続開催に見た 米ゴルフ界の総力

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男女連続開催の全米オープン

名門パインハーストを舞台に男女双方の全米オープンを2週で連続開催するというアイディアは、最初のうちは問題が多すぎると思われていた。最大の難点と指摘されたのはコース、とりわけグリーンの損傷だった。パワー溢れる男子選手たちが練習と試合で使用し、大勢の観衆が訪れる全米オープン。その1週間を経て、その後に残されるパインハーストは、果たして女子のメジャーの舞台になりえるのかどうか。女子選手や関係者からは、懸念の声も上がっていた。
だが、米国内で落ちる一方の女子オープンへの注目度を上げるためには、関係者、ギャラリーの便宜を図るという意味で、男女連続開催に挑戦してみる価値はあるのではないか――そんなUSGAの新たなる挑戦が、ついに今年、実現された。
USGAは男女どちらにも多少の我慢と譲歩を求めた。男子の練習ラウンドでは、ロープ内に入るコーチやレップなどの関係者の人数をできる限り抑えるために、特別なアームバンドを用意した。当初は練習ラウンドでグリーンを狙って打つショットも1球ずつに制限する予定だったが、これはさすがに実行されなかった。が、選手たちには最大限のコース保護、グリーン保護の努力を呼びかけた。女子に対しては、もしも男子の大会が悪天候による順延や月曜日の18ホールのプレーオフになった場合、練習を開始せずに待ってもらうなどの協力をあらかじめ求め、了解を得た。
肝心の選手たちが男女とも協力の意志と姿勢を示してくれさえすれば、あとは大会を主催するUSGAと関係部署が必死に動くのみだ。
男子の舞台を女子の舞台へ早変わりさせることに対してはUSGAは自信を抱いていた。コース設定は以前からUSGAの腕の見せ所だ。ティの位置、ピンの位置を多様に変化させることで、難易度の操作は自在にできる。USGAが誇る特殊なグリーンの湿度測定器を活用すれば、パインハーストのグリーンを男子用は硬く、女子用はやや柔らかく仕上げることも可能になる。
そうやって用意された男女それぞれの舞台は、誰の目にも明らかな形で、マーチン・カイマーとミッシェル・ウィーという、それぞれのフィールドのベストプレーヤーを勝者として選び出した。それは、今年のUSGAの新たなる挑戦が成功に終わったことの証だった。

共用するもの。
ダウンサイズするもの。

試合会場の設営や運営においては、男女双方の大会で共用できるものを増やす努力が随所に見られた。たとえば、テント、建物などの入り口で人々のクレデンシャルをチェックするセキュリティゲートの立て看板1つ取っても、両大会で使用できるよう、あらかじめ両大会のトロフィーを並べた絵柄と両大会のロゴマークを付し、使いまわせるようにしてあった。こうすれば、男子から女子へと舞台を変える際、何も入れ替えなくて済むわけで、この手法は看板のみならず、マーチャンダイズテントやスポンサー企業のコーポレートテント、メディアセンター内外の表示にいたるまで、あらゆるものに使われていた。節約とアピールを兼ねた一石二鳥の手法だった。
とはいえ、女子の観戦に訪れるギャラリー数は男子のそれより格段に減るため、何から何まで男子と同じものを会場内に備えているのは無駄を生んでしまう。それゆえ、男子の舞台から女子の舞台へ移行する際、ダウンサイズしたものはいくつかあった。その代表例は18番グリーンを取り囲むグランドスタンド。男子ではグリーンの奥と左右の三方を囲むスタンドが設置されていたが、移行日となった月曜日に左右のスタンドは撤去され、グリーン奥だけが残された。同様に、コース内のコンセッションスタンドやトイレなども、やや数を減らし、残されたものをフル活用する工夫をしていた。

近代機器や草の根の施策。
米ゴルフ界の総力の結集。

ギャラリーやテレビ視聴者のための様々なサービスには、きめ細かい工夫が見て取れた。コース内の数か所に設置されていた電光掲示板は大会運営の近代化の象徴だった。練習日は練習ラウンド中の選手たちの現在地が一目でわかる案内表示の役割を果たし、試合の4日間はテレビ画面とリーダーボード、双方の役割を果たしていた。
テレビカメラはライブ中継用以外にも、たとえば18番グリーンの上空にレール式のワイヤーを張り巡らせ、選手たちがパットする様子を真上から俯瞰で映し出すなどして、スリル感や面白みを増していた。
ロープ際ではボランティアの人々が超高精度の計測器で選手たちのプレーの様々な数値を取り込み、その数字を元にしてフェアウエイキープやGIR(パーオン)、スクランブリング(グリーンを外したときパー以上(par or better)で上がる確率)、パット、スコアリング等々の統計が中央コンピューターで算出され、メディアセンターのコンピューターやウエブ上にすぐさま反映されていた。
細かいところに目をやれば、ユニークなものはたくさんあった。ギャラリー用の送迎シャトルは木造バスを利用し、遊園地のような楽しいムードを醸し出していた。電動の車椅子は、誰でも希望すればその場で借りられるレンタル。かなり馬力があり、足場の悪いでこぼこ道やパインハーストに新設されていた砂地、枝葉が散乱した場所でも、すいすい走る優れものだった。
その一方で、機械やコンピューターでは実現できないゴルフの実体験のための場と機会も提供していた。18歳以下の子供たちのためのパットゴルフ場を設置(午前9時から午後5時。無料)。ちゃんと18ホールが設けられており、本物そっくりのアンジュレーションも付けられているところが何とも微笑ましかった。
遊びながらゴルフに触れることで未来のゴルファーを増やそうというゴルフ普及のための草の根の努力と工夫。いかにもUSGAならではの施策だと思ったが、看板をよくよく眺めれば、そのパットゴルフ場は「ファーストティ・プログラムによる運営」と記されていた。つまり、USGAのみならず、米国の各ゴルフ団体みんなの協力による施策だったのだ。
パットゴルフ場に限らず、男女連続開催という新たな試みも、USGAのみならず、PGAツアーやLPGA、PGAオブ・アメリカ、各ゴルフメーカー、メディアに至るまで、大勢の理解と協力が得られたからこそ実現できたものだった。
男子の全米オープンから女子の全米オープンへと移り変わる日曜日から月曜日にかけて。パインハーストには、男子のスター選手と女子のスター選手が混在し、声を掛け合ったり、談笑したり。普段は滅多に目にすることのない珍しい光景があちらこちらに見られたことは、米ゴルフ界が総力を上げて実現させた全米オープン男女連続開催への、たゆまぬ努力に対するご褒美だったのかもしれない。

「米ツアーで高まる“日本”への注目」

松山英樹がメモリアル・トーナメントで初優勝を挙げたことで、米ツアーにおける日本人選手の存在感は一気に高まり、同時に、米ゴルフ界や米メディアが日本人選手や日本メディアに向ける興味や好奇の視線も強まりつつある。
これまでは「日本人選手が勝つことなど10年に1度あるか、ないか」と軽視され、あまり興味を持たれないことが多かった。だが、ルーキーの松山があっという間に勝利を挙げたことで、もしかしたら日本のゴルフにまつわる何かが大きく変貌しつつあり、その中から松山のような大物若手が育ったのかもしれないという具合に、日本のゴルフの秘密を探り出そうとしているのかもしれない。 そんな彼らが今、最も興味を抱いているのは、面白いことに日本メディアが松山英樹や石川遼を取材する際の「囲み取材」だ。
言うまでもなく米メディアは日本語がわからない。だから彼らは米ツアーの試合会場で毎日のように見かける日本式の囲み取材を常に遠巻きに眺め、観察している。そんな彼らから私は何度もこんな質問を受けた。
メモリアル・トーナメント初優勝で注目を集める松山英樹。米メディアは日本式の囲み取材を遠巻きに眺め興味を抱いている。

メモリアル・トーナメント初優勝で注目を集める松山英樹。米メディアは日本式の囲み取材を遠巻きに眺め興味を抱いている。

「マツヤマを囲むときは、みんな内緒話みたいに小声で、イシカワのときは、みんな笑顔で賑やか。なぜだ?」「イシカワを囲むときは30分も40分も話しているが、あれは取材ではなく世間話をしているのではないか?」「マツヤマと長く話さないのは、マツヤマが話したがらない?それともメディアがマツヤマと話したくない?どっちだ?」
米メディアは、どんな選手に対しても同じ姿勢で取材することを基本としている。もちろん、取材対象がタイガー・ウッズとなれば、彼らだって多少は固い態度になる。が、対象が松山か石川かによって取材時間も声のトーンも、すべてが大きく変わる日本メディアの態度は「一貫性がなさすぎるのでは?」「メディアが選手に合わせたり流されたりして、どうする?」と不思議がっている。
4人の日本人が出場した全米オープンの際は、その視線がいつもより多く注がれていた。そして、予選通過したものの決勝で最下位まで落ちた谷口徹を「40分も囲んでいた日本メディアは、あれを取材と考えているのか?」「そこからどんな記事が生まれるのか?」「最下位の日本人を長々と囲むけど、日本人でなければ首位や上位でも取材はしないよね?」と目を丸くしていた。
とはいえ、欧米の流儀や主張が常に正しいとは限らない。欧米人には理解しづらい日本人ならではのやり方、考え方、感じ方というものは確かにある。心情面を重視しながら深堀りする取材をしていれば、選手にシンパシーを抱き、ときには愚痴の聞き役になることもある。欧米人のように合理的に割り切るのではなく、相手の表情や出方を観察しながら、気持ちを慮り、語りかけていく。それが日本人らしさであり、日本メディアの流儀だという主張もできなくはない。
が、ともあれ、米ツアーやメジャー大会の場で、日本メディアによる取材シーンが日本人以外の大半の人々から「不思議なもの」に感じられていることだけは確かだ。そして、メディアのみならず、選手や選手周辺の関係者の行動パターンや言動も、周囲から常に観察されており、首を傾げられることも多い。
「日本人は日本の流儀を米国に持ち込むばかりで、米国や世界の流儀に倣おうとはしない」という声が上がっていることを、どう受け止めるべきか。日本のゴルフ界の真の国際化を図るために「郷に入っては」を推進すべきではないのか。それとも、日本人は日本人らしく日本流を通すべきなのか。 これは、ゴルフのみならず、あらゆる日本のスポーツフィールドに対して投げかけられている課題だ。
米ツアーやメジャーで松山、石川がさらなる活躍をすればするほど、この問題、この課題は大きくなっていくということを、一度、日本のゴルフ界を上げて、みんなで真剣に考えるべきだと私は思う。

Photo Gallery

会場入り口のセキュリティゲート。荷物検査の後、バーコード方式のクレデンシャルをボランティアの人々がスキャンする。

スポンサー企業等のコーポレートテントが多数並び、全米オープンらしさを醸し出していた。レクサスのテントでは、車の展示のみならず、男女2つのトロフィーとともに記念写真撮影ができるサービスもあり、大人気。

コース内にはギャラリー向けに飲食物を販売するコンセッションスタンドがあちらこちらに設けられていた。

男子から女子への移行日となった月曜日に一部撤去された18番グリーンのグランドスタンド。

巨大なマーチャンダイズテントは連日、大盛況。レジには長蛇の列ができたが、対応のスピードは想像以上に早く、すいすい進行していたからトラブルはほとんどなし。

コース内に設置された電光掲示板。試合の4日間はリーダーボードと中継モニターを兼ねた表示になっていた。

ギャラリーの送迎シャトルは、可愛らしい木造バスだった

この電動車椅子はレンタル。とてもパワフルで砂地もすいすい走れるため、喜ばれていた。

急病やケガに備えるファーストエイド(救急隊)は自転車で会場内を回っていた。

パットゴルフ場は18歳以下限定。ちゃんと18ホールが設けられていた。

高精度のショットリンクで飛距離や打数、ボール位置などを取り込んでいくボランティアの人々。

18番グリーンの上方に張られたワイヤーを走るカメラ。俯瞰の映像が提供できる。

巨大なメディアセンターには世界各国からやってきた大勢のメディア達がモニターを確認しながら仕事をしている。

練習日は電光掲示板に練習ラウンド中の選手達の現在地が表示されていた。

ボビー・ジョーンズ・アワードの様子

インタビュールームには連日、注目選手や首位選手が呼ばれる。この写真はコースの修復を行なったベン・クレンショーらの会見風景。