第6回「安全対策セミナー」開催

GTPA(一般社団法人 日本ゴルフトーナメント振興協会)では、これまでゴルフトーナメントに関わる様々な「安全対策」について、啓蒙活動や講演セミナーを開催してきました。
第6回目となる安全対策セミナーはトーナメントを取り巻くリスクに対応する知識、知見を得ることを目的として、2つの視点から2部構成で開催しました。
7月12日(火)にTKP赤坂駅カンファレンスセンターにて行ったセミナーの概略をお伝えします。

第1部「クレーム対処について」

クレームとは、顧客の企業に対する問い合わせや相談などの要求行為に、苦情・文句・抗議の不満足感情が加わったものを言います。クレームというのは大体、不満足感情を爆発させてくるものです。クレームはまとわりついてくる不満足感情に対する攻略を考えないと収束しません。

光風法律事務所 代表弁護士 松田 恭子 氏

光風法律事務所 代表弁護士 松田 恭子 氏

初期対応

クレームが発生したら、まず、「対応策を決定する材料集め」が重要です。初期対応者が、真意の把握、クレーム内容と顧客情報の特定、必要な調査を細かく正確に把握、記録します。これらの精度が高ければ高いほど適切な対応策を決定でき、要求行為に対する適切なボールを打ち返すことになります。

そして、同時に初期対応者がしなければならないのは不満足感情に対する「相手の感情の鎮静化」です。クレームというのは非常に感情の部分、感情領域にわたる部分が多いので、この感情部分を攻略できないと理屈だけでは全く解決できないという現実があります。

「相手の感情の鎮静化」のスキルと方法論

なんらかの要求行為があった時に、仮に相手が勘違いをしているなということであっても、まずは相手の話をきちんと聞くことです。話を聞くことによって行う作業は何かと言うと、相手の感情を理解することです。これは苦しい作業です。なぜならクレームをつけてくる方は独特の世界観、被害者感情、認知のゆがみを持っていることが多いからです。そこで自分の感情をチューニングして相手のとんでもない世界に自分を合わせていき、そして、「わかる」という気持ちを持たなければなりません。

また、クレームを申し出る行為は話を聞いてもらいたい、怒りたいという気持ちに基づいています。したがってまず喋らせることが大切です。これも話を良く聞けということですが、もっと深い感情がお客様の中にはあります。「担当者を困らせたい」という非常にサディスティックな感情を持っています。それは「自分が困っているから」、「自分の思いどおりにならなかったから」です。ではどうするか。「困ったふりをする」「苦しがる」ことです。決して淡々と言わず、会社のルールや法律で希望どおりにならない場合でも「心苦しく言う」、それも身もだえをしながら申し訳なさを前面に出すことで相手の感情が鎮静化していきます。

そしてもう一つの要素で重要なところが、「相手の感情を鎮めるべく謝罪を口にする」です。謝罪と言うのは挨拶です。ただ、怒りで興奮している相手に不用意な挨拶は禁物です。「この度はご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳ございませんでした」というようなことになります。謝罪イコール法的責任を認めたということにはなりません。それに謝罪が無いと絶対に感情は収束しません。ただし、謝罪はしても、この段階で法的責任を認める不必要な発言や金銭提供に応じる旨の安易な発言をしないで下さい。原因はなんであれ、相手に不快な感情を抱かせたということへの謝罪です。

対応策を決定する材料集め

光風法律事務所 弁護士 岩永 智士 氏

光風法律事務所 弁護士 岩永 智士 氏

まずは真意の把握です。何を要求されているのかを捉えてきて下さいというのが初期対処の材料集めです。例えばその過程で「誠意をしめせ」と繰り返し言われる方がいます。「誠意」なんて10人いたら10通りあります。相手に聞かないことにはわかりません。ただし聞いても「自分で考えろ」と言われることもあります。その際には「自分は馬鹿だからよくわかりません。何卒ご教授下さい」と頭を垂れている相手に中々攻撃はできないので、こうしたギブアップトークを繰り広げながら要求の中身を捉えます。

さらに一歩踏み込んで「金銭保証ということでしょうか?」などと伺いながら真意を導きだすこともしながら要求内容を特定します。要求が複数内容に及ぶ場合もありますので、そうした場合は最後に突き合わせができるよう必ずメモを取るようにしましょう。

次にクレーム内容の特定です。まずは状況を正確に把握する。いわゆる5W1Hです。要求内容を把握するとともに相手がいつ、どこで、何を、どうしたかということです。そうすることで、こちら側の不備があったのか、相手側にも問題があったのかを検証します。

そして顧客情報の特定です。これは非常に重要です。顧客情報の3点セット、名前、電話番号、住所は初期対応の過程で必ず押さえるようにします。特に住所は重要です。のちに書簡で通知をするような段になった時に、住所が不特定では良いように振り回されることになります。後になればなるほど聞き出しにくくなるので必ず初期段階で把握するようにしましょう。

「一般通常のクレーム」と「悪質クレーム」

1歩譲歩し、当社としてはここまでがぎりぎりですという対応策を持っていき交渉し、それで収束するのが「一般通常のクレーム」です。収束しないものは「悪質クレーム」に分類して切ります。そして仮に当社の対応になお不服があるのであれば裁判所で勝負しましょうということになります。切る場合は縁切り状を作成し送付します。それで100件あれば95件が収束します。そのためにも住所が重要です。数年にわたって企業に付きまとった相手でも終わります。初期対応がきちんとしていれば最良の対策も決定でき、収束率が高まるだけではなく、仮に裁判になっても不当クレームに屈しない会社との評価が得られます。これがクレーム対応です。

第2部「トーナメントの地震対策について」

過去にゴルフ場を襲った災害

リスク対策.com 編集長・新建新聞社 取締役 中澤 幸介 氏

リスク対策.com 編集長・新建新聞社 取締役 中澤 幸介 氏

世界中で死傷事例を調べたのですが、ほとんどが落雷によるものでした。地震で死傷した事例は、私は見つけられませんでした。ただし、2016年9月14日にニュージーランド女子オープンで最終日にマグニチュード5.7のかなり強い地震が発生しています。幸いにゴルフ場では被害は無かったようですが、同じ地震のニュースを探すと大規模に地崩れを起こし海側に土煙を上げて土地が崩れ落ちる動画がありました。少し場所がずれてトーナメント会場で起きていたらと考えるとゴルフ場でも被災し得ることが分かりました。

イマジネーションを高める

今回、一番お伝えしたいことは地震というものは原因であって結果では無いので、地震が何を引き起こすのかという想像を高めていただきたいということです。私は「災害は怪奇な生き物である」と言っているのですが、可愛い猫のような顔をしていた災害でも実はとてつもなく大きな体だったということもあり得ます。また、巨大台風ですごく恐ろしい生き物だと思っていたら、意外に被害もなく消えてしまうというケースもあります。この見極めにはやはり一定期間の時間が必要で、その中でこの災害の本質はどこなのかということを見極めないと、災害によっては必ず特異な状況を生み出します。たとえば今回の熊本地震は震度7が2回続いたことが一番の想定外と言われます。その部分を見極めるということが災害対策のひとつのポイントだと思っています。一発きて終わるものではない。その後に何が起こるのかということを一定期間見ていかなくてはいけないということです。

ゴルフトーナメント地震シミュレーション

地震の場合、ゴルフ場にはどのような被害が発生し得るか。地震という原因のあとにゴルフ場ではどういった被害、被災が発生し得るか。災害イマジネーションということで、何が起き得るのかをイメージするということです。例えば「観客席から転落」「建物内や外での落下物で負傷」「道路が寸断し帰宅困難」「管理棟で火災」「海のそばなら津波」「山なら土砂崩れ」「地割れ・陥没」「噴火(火山性地震)」です。そしてその後どう対処するかです。

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危機管理の基本

危機管理は「予測」と「予防」と「対応」の3つ。危険が予測できなければ予防もできません。予測したものに100%予防ができれば被害は受けないで済みます。ですが日本の危機管理で一番弱いと言われているのはこの後の対応です。被害が起こることを前提に対応をする、起きた後をどうするという先ほどのシミュレーションです。全部を予測するのは難しいですし、それに対して全部を予防するというのはお金も人もかかりますから難しいとすると、後は対応力でカバーをするしかありません。

では、どうやって予測するのか。ポイントは最低5つあると思っております。①地理(土地の形状・断層・ため池など)②歴史(過去に起きた災害や事故)③物理(コース内、建物や設備などの丈夫さ)④時間・環境の変化(朝から夕方のモノの見え方、周辺環境や家族・住民構成の変化など)⑤直感(これは危険と感じたこと、ひやりはっと)です。

次に「予防」のポイントですが、ハード対策、ソフト対策で「モノで用意できるものは用意して下さい」というものがハード対策。備蓄できるものなら備蓄しておくということです。ソフト対策はDIG(災害想像ゲーム)訓練をやってみるとか、対応計画を作っておくというようなことです。そこで重要なのは日本の危機管理の中で弱いところ、被災した後のこと。被災してしまってから使えるハード対策、被災してしまってから使える訓練、だからこそこうした計画を作っておきましょうと。被災した後のことを是非、イメージをしていただきたいと思います。

最後の「対応」ですが、これは当たり前のことですが順番がありまして、①助けに行く人も含めて身の安全を守る(Life Saving)②被害の拡大を防ぐ(Incident Stabilization)③生活・財産を守る(Property Protection)です。それぞれの頭文字をとってリップ(LIP)といいます。当たり前のことだと思えますが、実はこのリップができなくて何人もの方が尊い命を落としています。1回津波があったので大丈夫だと思って家財をとりに行く、大きな地震があったあとで大丈夫だと家の中に戻ったところへ本震がきてなど。やはり、②被害の拡大を防ぐ事が飛ばされていきなり③の生活・財産を守るというところに行きがちです。まずは、被害の拡大を防ぐのだというところを良く考えておいていただきたいと思います。