スペシャルインタビュー

〜あの人に聞く〜 keep up! Vol.2

ワールドカップの熱量をトップリーグへ。
ラグビー文化定着へ積極果敢な取り組みに挑む

2019年秋、日本中を熱狂させたラグビーW杯日本大会。その勢いのまま開幕した今季のトップリーグも、これまで以上に多くの観客を集めている。今や日本中にラグビーの楽しさが認知されたと言えるだろう。その仕掛け人の一人、日本ラグビーフットボール協会竹内哲也マーケティング部長に、ラグビーW杯成功への施策、そしてトップリーグを盛況に導く取り組みについて話をうかがった。

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─ 昨年のラグビーW杯日本大会は大成功でしたね

(公財)日本ラグビーフットボール協会 マーケティング部長 竹内哲也氏

(公財)日本ラグビーフットボール協会
マーケティング部長 竹内哲也氏

みなさん驚かれたのでは、と(笑)。ハッキリ言って国内では人気のないラグビーのW杯ですから、開催そのものへの不安視や疑問を感じた方々は多かったと思います。ただ私自身はチケットの販売動向や世界3大スポーツ大会であることを踏まえると、ある程度は成功する確信はありましたが、大成功の理由は、結果論ですが“2019年にW杯を開催出来たこと”だと考えてます。日本は2011年W杯の招致が叶いませんでしたが、その反省もあり、19年のW杯招致は11年の時とは協会の体制や熱量はまったく違っていました。また日本代表の強化策が徐々に実り、15年W杯イングランド大会で3勝を挙げ、その土台と経験を活かし今回のW杯にて結実しました。もし11年に日本で開催していたら、果たしてベスト8まで行けたかどうか。さらにもう一つ大きな要素として、社会構造の変化が背景にあると思ってます。在留外国人の数は11年が204万人、19年は273万人です。訪日外国人の数も11年は621万人で、19年は3119万人。8年間で街には外国語のサインボードが増え、会社やコミュニティで外国人と共生し、これまでにない多様性を受け入れていく大きな社会構造の変化の中で、ラグビー日本代表がいわゆる日本社会のダイバーシティの先兵として認知され、このチームの形態に共感が高まったと思います。15年のW杯のときにはまだ「日本代表になんで外国人がいるんだ」などと言う方も多かったですが、今回のW杯ではそういう論調はほとんどありません。そこに5つからなるラグビー憲章(品位・情熱・結束・規律・尊重)が、日本人特有の犠牲的精神、武士道精神、ノーサイドの精神、おもてなし精神などと親和性があることに気付かされ、結果的にうまくハマったと考えています。

─ 19年W杯開催に向けて力を入れてきたこと、苦労されたことは?

日本代表キャプテンのリーチマイケル選手

日本代表キャプテンのリーチマイケル選手

力を入れたことは主に三つあり、先ずは日本代表のブランディングです。幸いにも海外メディアから「BRAVE BLOSSOMS」というありがたい愛称をいただていたので、それを世の中にどう浸透させていくかを考えました。二つ目はメディア環境の変化に伴い、地上波にこだわらずネット配信なども含めラグビー全体の視聴機会を増やしていくこと。そして三つ目は、ライト層や新規ファンへの受け皿を準備することです。これまでは「ルールを覚えてからラグビー観戦に来てね」的な印象がありましたがそうでなく、我々からファンに歩み寄ってコミュニケーションする必要を感じ、分かりやすいルール動画を作成したり、トップリーグ選手の自虐要素を取り入れた面白い動画を作ったり、マーチャンダイジング展開を拡大させました。

苦労したことは、そもそも規定やガイドラインが性善説で作成され、時代に適さないものが多かったこと。またRWC2019組織委員会や自治体からの意向を踏まえ、様々な運用規定を走りながら考えていったという感じで、時代や環境の変化に対応するための整備ですかね。それでも将来のラグビーの発展と19年W杯での成功を見据え、産みの苦しみとしてやってきました。

─ そのW杯を経て、今季はトップリーグが絶好調ですね

第3節を終えて総入場者数は24万4000人。これは前年より約7万6000人増、前年比145%ほどです。過去最多は2015年シーズンの49万2000人ですが、今季の集客目標は60万人に設定しています。今季のキーワードは「ラグビー熱を冷ますな。にわかファンを逃すな」です。プロモーション的には“W杯ロス”を逆手に利用しようということで、ファンの飢餓感を煽るコミュニケーション戦略を実施してます。CMに日本代表を想起させる吉祥文様を起用したり、トップリーグ各チームに、代表選手がどのように分布しているかを分かりやすくひと目でわかるようSNSなどで発信したり、選手がテレビ番組などに出る時はトップリーグの告知を必ず入れてもらうようにもしました。

またW杯の演出を参考にしながら、会場ではスタジアムDJを導入したり、入場曲やキックオフ前のカウントダウンを取り入れたり、効果音をうまく使ったりしています。

─ チケットはどのような戦略で?

チケットに関しては、15年の苦い経験を教訓にしています。トップリーグには、協会の招待券や各チームが自由に使える「チーム券」というものがあります。15年はこれらチケットの着券率の読みが甘く、試合当日に多くの空席があるにもかかわらず、当日券を販売できなかったりしました。この反省から、今季はチームと協会の共創を図り、チーム券でどれくらいの人が来るのか、各チームと綿密に相談して精度を高め、その上で当日券を必ず出すようにしています。春休みなどは小中高生向けの無料チケットを配布したり、ラグビースクールや体験会などに参加できるスチューデントシートなどを用意したりしています。いずれも集客力の弱いエリア、対戦カードの人気などを踏まえ、かなり細かくマーケティングして行っています。

─ 人気を維持するためには、子どもや女性ファンを増やすことが大切だと思いますが

若い女性の観戦も非常に多くレディース専用の会員証も存在している

若い女性の観戦も非常に多くレディース専用の会員証も存在している

観客の中にはこれまでラグビースクールに通ってそうな子どもは多かったのですが、今はそうでない子が増えています。女性客も若い人が増えて、直近の調査では、試合によっては何と女性の方が多い(笑)。子どもや女性のお客様をはじめとしたいわゆる「にわかファン」の満足度を上げることは大事なポイントです。にわかファンというのは、日本語の響きとしてとても愛おしい感じがしますよね。にわかファンにとって居心地の良い場所を作ってあげることが大事なのかなと。会場にもよりますが、選手と直接触れ合える機会を設けたり、インスタグラムを意識してにわかファン向けフォトスポットを用意したりしています。また、にわかファン向けのラジオサービス、会場でのルール解説なども行っています。

─ トップリーグの課題としてはどんなことがあるでしょうか?

まず、会場ごとにスペックが違うことがあります。音響設備が整っていなかったり、大型ビジョンがなかったり。大型ビジョンのない会場では、仮設ビジョンを設置して演出する場合もあります。また、集客に地域差があることも大きな課題で、特に大阪と福岡が問題なのですが、競技人口・競技レベルと観戦文化は全然違うんです。

また、トップリーグは企業とともに育んできた、世界でもたぐいまれなリーグです。チームに雇用され引退後も社員として勤務できる。これは海外の選手からもとても羨ましがられます。

トップリーグは21年秋に新リーグへと移行する予定ですが、興行ありきではいけないと思います。リーグ・参戦チーム・企業そして選手など、全てのステークホルダーの意向を反映させながら考えていかなければ。

─ ジュニアの育成についてはどのようにお考えですか?

地元のラグビースクールでコーチを務める竹内氏

地元のラグビースクールでコーチを務める竹内氏

先ずはエントリーのし易さを維持することだと考えています。全国のラグビースクールはボランティアに支えられているという側面はあるものの、年間1万円くらいで入会できるところがほとんどです。自分の住んでいるエリアのスクールが調べられる「ラグナビ」というサイトも整備しました。また、全国一斉ラグビー体験会、タグラグビー、放課後ラグビーなども継続してやっています。安全面などでは親御さんの心配もあるので、コーチ資格制度の刷新も進めています。入門者にはとにかく楕円球の面白さを訴えることが重要ですね。

─ 観客への調査などは?

観戦者調査というアンケートを、2016年からトップリーグ・大学・高校・日本選手権・サンウルブスなどで実施しています。首都圏とローカルの志向の違い、メディア接触、ラグビーへの関与度など様々なデータは取れますが、チケット属性など更に細かく分析しなければと思っています。

─ 現在のラグビー人気を定着させていくために、大切なことは何でしょうか?

SNSを中心に、これまで以上に情報発信に力を入れていくことが大事です。メディアとの更なるリレーション強化も必要です。また今はまだ弱いとされているデジタルマーケティングにも本格的に着手しなくてはなりません。加えて自治体との連携、プレー環境の整備、中高生への指導者確保、愛校心の無い大学生への対応、そして日本代表強化の継続。そのためには潤沢なコマーシャル収入が必要となってきます。ポイントを挙げたらキリがありませんが、一つずつ着実に進めていきたいですね。


W杯で盛り上がったラグビー熱を継続・拡大するために、ラグビー界は様々な努力を重ねています。ゴルフ界発展のために学ぶべき施策もたくさんありそうです。

JRFUマーケティングレポート 2015-2020輪

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