GTPA海外トーナメント研修

SMBCシンガポールオープン視察レポート

JGTOとアジアンツアー共催の「SMBCシンガポールオープン2020」が、2020年1月16〜19日、シンガポールのセントーサゴルフクラブで開催された。これに合わせ、「GTPA海外トーナメント研修」を実施。会員企業などから12名が参加して大会を視察するとともに、アジアンツアーCEOや運営担当者などとミーティングを行った。同ツアーの運営体制や広報、TVコンパウンドの実態について、レポートをお届けする。

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多様な国で開催するため柔軟な運営姿勢も必要

18番グリーン右は仮設の3階建てスポンサーテントがあり(写真上)、奥には大会のために建てられた常設のスポンサー用施設がある(写真下)

18番グリーン右は仮設の3階建てスポンサーテントがあり(写真上)、奥には大会のために建てられた常設のスポンサー用施設がある(写真下)

シンガポールオープンは、1961年に創設されたシンガポールのナショナルオープンで、今年で53回目を迎える歴史ある大会だ。2009〜12年はヨーロピアンツアーと共催され、その後中断を挟み16年から三井住友フィナンシャルグループがスポンサーとなり、JGTOとの共催の形で開催されている。この大会で有資格者を除く上位4名に入れば、当該年の全英オープン出場権が与えられる。

今大会はアメリカのマット・クーチャー選手が通算18アンダーで優勝。日本からは42名の選手が出場し、木下稜介選手が6位タイに食い込んだ。これにより木下選手は上位4名の条件をクリアし、自身初の全英切符を手にしたことは朗報だった。

さて、今回の研修では、まずアジアンツアーCEOのチョウ・ミンタン氏とのミーティングが行われ、同氏よりアジアンツアーの概要や運営状況について詳しく語られた。

「アジアンツアーは現在20カ国で開催しています。今シーズンは前週の香港オープンで開幕し、この大会は2試合目となります。今年は28〜30試合予定していますが、このうちヨーロピアンツアーとの共催が5~6試合、JGTOとの共催が3~4試合、韓国ツアーとの共催が3試合ほどあります。他に下部ツアーであるADT(アジアン・デベロップメント・ツアー)も20試合ほど予定しています」

アジアンツアーの全体的な流れをこう説明したチョウ氏。さらに3つの主な施策について話してくれた。

「一つ目は協会としてワールドランキングのフェデレーションとしての運営。二つ目はIMGと提携し、テレビ放映を担当するアジアンツアーメディアの経営。三つ目はツアーパートナーとしてタイトリスト、パナソニック、そしてロレックスとの提携です。また、ツアーの運営自体は、選手自らが選んだ役員によって行われています。これは日本のJGTOの仕組みと同じです。これらの施策で収益が出た場合は、それを次年度、選手に還元していきます」

アジアンツアーは、入場料を無料としている大会が多い中、シンガポールオープンは有料である。4日間で8000人前後の来場を見込むが、入場料自体が比較的安い金額に設定されている。前週の香港オープンも4日間で、およそ3万2000人のギャラリーを集めたが、平日は入場無料、土日のみが有料だ。ツアーにおける入場料収益はそれほど大きくない。当然、ツアーの収入源は他に求めることになる。

「主な収入源をさらに細かく説明するとトーナメントのサンクションフィー、QTのエントリーフィー、スポンサーシップ、そして賞金のトップオフなどがあります。テレビの放映権は我々にとってとても大きな収益の一つです。テレビは約70カ国に放送し、その収益はアジアンツアーとアジアンツアーメディアで50%ずつ共有します」

この放映権に関しては開催国の運営会社が持っていたり、ツアー側が持っていたりと、大会によって事情が異なる。他ツアーとの共催となると事情はより複雑だ。ほとんどの試合が入場無料のため、放映権が非常に大きなプロフィットとなるのだ。

アジア各国で開催されるツアーだけに、この放映権の問題に限らずレギュレーションの統一には多くの苦労がある。ツアーメンバーもさまざまで、タイ人が25%、次いでインド人が約7%、さらに韓国人やオーストラリア人が続く。共通語は英語で、選手のエントリーフィーなどはキャッシュレス化が進んでいるという。

「コースセッティングはガイドラインがあり、競技委員が各コースを回ってセットアップしますが、国やコースによって天候や保有する機材、管理のクォリティなどさまざまな事情があるので、このあたりはセットアップする競技委員により比較的フレキシブルにやっています」

事情の異なる多くの国で、全てを杓子定規に進めることは難しい。ツアー運営の苦労は想像以上に多いことだろう。

練習場ではジュニアレッスンも開催されていた

練習場ではジュニアレッスンも開催されていた

近年、日本ではゴルフ人口が減少傾向だが、アジア各国ではどうだろうか。

「国によって事情は違いますが、タイやインドネシアではゴルフ人口は増えています。今年はオリンピックがあり、インドネシアやマレーシアでは選手をオリンピックに派遣するためにとても力を入れています。オリンピックの影響は非常に大きいと思います」

東京オリンピックへの期待は、アジアの国々からも大きく膨らんでいることがうかがえる。ゴルフ人気が高まり、ギャラリーの数も増えれば、マナーなどの問題も出てくるだろう。コース内での写真撮影に関しては、チョウ氏は次のように語った。

「アジアンツアーでは、シャッター音をサイレントにしておけばほとんどの試合で写真撮影を許可しています。ギャラリーがSNSにハッシュタグをつけて投稿を行うことは、大きな宣伝効果がありますから。会場内の看板に『ハッシュタグをつけてください』『ハッシュタグを忘れないでね』などと掲示しています。また、会場に選手の等身大パネルなどを設置し、自由に写真を撮れるようにしています」

さまざまな国々を転戦し、さまざまな人種が集まるアジアンツアー。それをうまく切り盛りするためには、ある程度柔軟な運営姿勢も必要なのだろう。日本ツアーにもこれからますます多くの海外選手が参加してくる傾向があり、ファンの意識も変わってきている。日本ツアーの門戸をさらに広げていくために、レギュレーションの決め方やギャラリーサービスの手法など、参考にできることも多そうだ。

他ツアーとの共催によってアジアと世界の橋渡しを

アジアンツアーCEO チョウ・ミンタン氏とのミーティング

アジアンツアーCEO チョウ・ミンタン氏とのミーティング

さらにチョウ・ミンタン氏には、他ツアーとの共催のメリットについて話をうかがった。

「共催のいいところは、日本やヨーロッパのトップ選手が多数出場して一緒にプレーすることにより、アジアの選手がいろいろなプレースタイルを見ることができること。それでアジアンツアーの選手たちのレベルも上がっていくでしょう。ギャラリーも各国のトップ選手のプレーを見ることができますね。それに共催大会で優勝すれば、アジア以外のツアーにも出場でき、世界に出ていく機会も得られます」

他ツアーとの共催は、アジア圏のゴルフレベルを上げる重要な要素。世界へ橋渡しの役目を果たす大切な機会なのだ。一方で、多数の国で開催され、慣習や言語の違いもあり、どうしても気になるのはセキュリティの問題だが、その対応については、

季節柄、急な天候変化もあるため場内には避難スペース(写真左)が数箇所設置されており避難プランもインフォメーションで掲示されている(写真右)

季節柄、急な天候変化もあるため場内には避難スペース(写真左)が数箇所設置されており避難プランもインフォメーションで掲示されている(写真右)

「セキュリティのチェックは各国で行っていますが、全ての試合でやっているわけではありません。規模の大きな大会や国の情勢などを考慮して行っています」

入場無料の試合も多く、ギャラリーの出入りは比較的自由だ。そのためさほど厳密にチェックできないという事情もあるのかもしれない。

環境への配慮を考え、紙の使用を減らす工夫も

ラガルデールスポーツ社 マーク・ハーデス氏

ラガルデールスポーツ社 マーク・ハーデス氏

アジアンツアーにも日本と同じように運営会社がある。その一つ、シンガポールオープンを運営するラガルデールスポーツ社のマーク・ハーデス氏にも話をうかがった。

「メディアセンターには世界中から100人ほどの記者やカメラマンが集まります。また、大会ボランティアは1週間を通して400人くらい。ボランティアは開催コースであるセントーサGCと運営サイドが、他のゴルフ場に告知するなどして募集します。ボランティア本部にはビュッフェスタイルの食事も用意されています。大会の事前告知は、メディアデーを1〜2カ月前に行うほか、市内でパター合戦などのイベントを開催したりして告知します。スポンサーからの希望があれば、大会週とは別のタイミングでも、大会PRのためのアマチュアコンペなどをセッティングすることもあります」

奥にはインタビュースペースを備えたメディアセンター

奥にはインタビュースペースを備えたメディアセンター

一方、高温多湿のアジア各国だけに、コース管理は難しい作業となる。セントーサGCのコース管理には60名ほどが関わっているという。同コースは金銭的に余裕があるゴルフ場なので、メンテナンススタッフも全てコースの社員だ。しかし、シンガポールの他のゴルフ場は外部のメンテナンス会社に依頼することも少なくない。

「セントーサGCの全てのグリーンの下にはエアシステムが入っています。スコールのような激しい雨が降っても、ものすごいスピードで水が引いていきます。さらに、木が生い茂っている所などは濡れたまま放置するとグリーンにカビが生えてしまうので、巨大な扇風機を併用して使用します」

ペットボトル削減のため各所に設置されているウォーターサーバー 1番ティ(写真左)、コース内(写真右)

ペットボトル削減のため各所に設置されているウォーターサーバー
1番ティ(写真左)、コース内(写真右)

他に興味深かったのは試合中のギャラリーサービスについてだ。

「今は会場内でも携帯を持っている人が多いので、スコアボードをあまり設置しません。紙のペアリング表も作らず、携帯サイトに情報を流すようにしています。環境保護のため、紙をなるべく使わない配慮です。コース内や各本部などでも、ペットボトルの飲み物の販売や配布をやめウォーターサーバーを設置してあります」

環境保護への取り組みはアジアンツアーにおいても着々と進んでいることがわかった。

映像は現場で瞬時に編集TVとWEBの関係も強い

TVコンパウンドの視察を行っている様子

TVコンパウンドの視察を行っている様子

アジアンツアーメディアのピーター・ホワイト氏は、テレビ中継のためのキャビン(コンテナ)を案内しながらTVコンパウンドについて説明してくれた。

「TVコンパウンドはいくつかのキャビンで構成されています。一つ目はグラフィックスとサブミックスのキャビン。二つ目はエンジニア、三つ目がオーディオとプロダクション、四つ目はVTR編集といった具合です。ケーブル付きのカメラはコース内に11台設置され、他にワイヤレスが3台あります。このTVコンパウンドを70人超のスタッフで稼働させています」

ここで制作した映像は香港を経由し、そこからヨーロッパ、アメリカ、日本など、全世界に向けて発信されている。また、その映像はWEBサイトでも動画として流す。WEB用の動画もこの場で編集しており、試合のハイライトはもちろん、終了したばかりのインタビュー映像などもすぐにWEBサイトで見ることができるという。テレビとWEBサイトのつながりは非常に強いと言えるだろう。

「このTVコンパウンドのキャビンは、コースに常備されているものではなく、トーナメントの時だけ設置されます。中継車でなくこのようなコンテナの形をとるのは、国によって中継車が行けない場所があるからです。インドでは大きなテントを利用したりしますし、クラブハウスが広い場合はクラブハウス内に機材を持ち込むこともあります」

アジアンツアーは、そこで戦うプレーヤーのレベルとしては、まだ「日本や欧米に追いつけ、追い越せ」といった状況かもしれない。しかし、ツアー全体の運営や収益体制、TVコンパウンドの役割などについては、参考にできることが多分にあった。