舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT

今こそ、個性の時代

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

コロナ禍の真っ只中、6月11日から再開された米ツアーは、最初のうちは感染予防ガイドラインやPCR検査に関することばかりがニュースになっていた。

だが、試合を重ねていくにつれ、選手たちも関係者もファンも、コロナではなくゴルフそのものに目が向くようになり、無観客の静寂の中での試合開催も、いわゆる「ニュー・ノーマル」として人々の間に定着しつつある感があった。

そして、今季最初のメジャー大会、全米プロを迎えたころ、話題の中心にしばしば上がっていたのは、ブルックス・ケプカとブライソン・デシャンボーの2人だった。

パワーの時代?

6月から再開された米ツアーに、デシャンボーは別人のような出で立ちでやってきた。1日6食。その間にサプリメントも摂取し、筋肉を増強して30ポンドも体重を増やしたデシャンボーは、360ヤードも370ヤードも飛ばす超ロングヒッターと化していた。

昨年までのデシャンボーは「ツアーきってのスロープレーヤー」のレッテルを貼られていたが、すでにそれは忘れられつつある昔話だ。デシャンボーと言えば「筋肉隆々のパワーヒッター」が彼の新しい修飾語になった。

一方で、かつてのデシャンボーのスロープレーぶりに何度も苦言を呈してきたケプカは、デシャンボーの筋肉隆々の出で立ちに、あたかも疑惑を示唆するような意味深な写真をツイッターで発信し、物議を醸した。

つい最近では、デシャンボーが「ボールの近くにファイア・アンツ(注・毒性のアリ)の巣がある」と主張してルールの裁定を求めたことを皮肉り、自分のボールを指さしながら「あ、アリの巣がある!」と、大人げない言動を見せたこともあった。

米メディアはこぞって「ケプカvsデシャンボー」を取り上げ、「これからは2人の飛距離競争、筋力競争が激化する」「ゴルフ界はパワー合戦の時代になる」と書き立てた。

個性の時代!

C.モリカワがその持ち味を活かし、メジャー初制覇

C.モリカワがその持ち味を活かし、メジャー初制覇

しかし、「ちょっと待てよ」と首を傾げた。確かに、ケプカもデシャンボーも屈指のパワーヒッターであり、世界ランキングの上位にはジャスティン・トーマス、ジョン・ラーム、ローリー・マキロイ、ダスティン・ジョンソンといった飛ばし屋たちがひしめいている。だが、彼らの中で、飛距離を伸ばすことだけを求めてトッププレーヤーになった選手は一人もいないはずだ。

研究熱心で、ネバーギブアップの精神の持ち主でもあるデシャンボーは、周囲から「マッド・サイエンティスト(狂った科学者)」と呼ばれ、「スロープレーヤー」「利己主義」と揶揄された日々の中、「僕には僕なりの戦い方があり、ゴルフには人それぞれの戦いがあることを示したい」と思い立った。そして、今までの自分とは異なる自分、今までの自分のゴルフとは異なるゴルフでも勝てることを実証しようと心に決めた。

だから彼は「緻密な分析に基づいてプレーするこれまでのデシャンボー」から「肉体を増強してパワーを武器にするデシャンボー」へ変身し、再開4戦目のロケット・モルゲージ・クラシックを制覇して通算6勝目を達成。「今までと全く異なるゴルフで勝てることを実証できたことがうれしい」と喜んだ。

一方、ケプカは昨秋に手術を受け、さらには転倒して再び故障した左膝の回復に努め、パット専門のコーチに師事するなど試行錯誤や努力も重ね、「今は心身ともに100%ヘルシーだ」と自信を抱ける段階にようやく到達している。

そして「僕には親友はいないし、必要だとも思わない。ライバルもいない。誰かをライバルだと思ったこともない」と断言。そこまでストイックで毅然とした言動を取ることができる選手は決して多くはなく、それはケプカ特有のパーソナリティと言うことができる。

そう、今、際立って見えているのは、それぞれの選手の個性だ。きわめて個性的なデシャンボーとケプカの2人が、たまたま2人とも筋肉隆々の肉体とパワーの持ち主であるがゆえに、これからのゴルフが「パワーの時代」になると言われてしまったが、本当に到来しつつあるものは「個性の時代」だ。

そう考えれば、小柄で飛距離が出ないコリン・モリカワがワークデー・チャリティ・オープンでジャスティン・トーマスを撃破したことも、その4週間後の全米プロで飛ばし屋たちとの大混戦を制してメジャー初優勝を挙げたことも納得がいく。モリカワは正確なショットとパット、それに強靭なメンタリティを武器にして、彼ならではの個性を活かしたゴルフでメジャータイトルを手に入れた。

コロナ禍で練習の仕方も試合への備え方も、すべてが従来とは変わってしまった今、その難局をどうやって乗り越えていくかが問われている。

今こそ、選手それぞれが精神力や創造力、対応力や忍耐力、持てる個性をフルに活かし、コロナの時代とゴルフの世界をたくましく生き抜いていく時代だ。